大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)960号 判決 1965年3月31日

理由

控訴人の本訴請求は、要するに、被控訴人らが、その有する訴外有限会社伊藤工場に対する各債権の弁済を受けるため、右各債権を執行債権として、訴外工場の訴外三徳信用組合に対する債権の各一部について、債権差押並びに転付命令を得て、これにより訴外工場から右被転付債権の移転を受けたことが、控訴人を含む訴外工場の一般債権者を詐害する行為に該ることを前提として、右転付命令による被転付債権の移転の取消と、これにより得た被控訴人らの各受益金の支払を求めるというにある。

よつて検討するに、転付命令は差押債権者の申立に基き差押に係る債務者の第三債務者に対する金銭債権をその券面額で執行債権の弁済に代へ差押債権者に移転させる執行裁判所の移付命令であるから、これにより、被転付債権は債務者から債権者に移転し、被転付債権の存在する限り、券面額の範囲内で執行債権が弁済されたものとみなされる効果を生ずることは勿論であるが、それは債務者自らなした債権譲渡ないし弁済行為に基くものでなく、債権者の申立による国家の執行行為に基くものであること、ここに多言を要しない。ところで、民法第四二四条は取消権の対象となる行為を債務者が自からなした法律行為に限定していて、他人の申立に係る執行行為に基き生じた効果のごときものを取消権の対象としていないことその文言自体から明らかである(附言するに、破産法第七五条は、執行行為をも否認しうることを定めているので、破産手続においては民法における債権者取消権の場合と異なり、否認せんとする行為が破産者の法律行為に基くものであると、執行行為に基くものであるとにより、否認の目的となしうる点においては変りはない。)から、仮に控訴人主張のように、転付命令により控訴人を含めた訴外工場の一般債権者の債権が侵害される結果を生じたとしても、その効果を目して、詐害行為に該るとして、その取消を求め得ないものといわねばならない。そうだとすると、控訴人の本訴請求は、その他の点の判断をするまでもなく、理由がない。

されば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないから棄却。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例